【悲しみの向こうへ 《1》 】
(社長×言葉・シリアス)





 瀬人、私はどうやらお前とのゲームに負けたようだな。

 狂ったような哄笑。そして、砕け散るガラス。摩天楼の頂上から落下し、そして、純白の大理石にたたきつけられた人間の体が、熟れすぎた果物がつぶれたように、ぐしゃりと血と漿液を撒き散らす。
 見ていなかったにもかかわらず、彼は、あまりに精緻に、そして容赦の無い精密さをもって、それを想像する。数十メートルの高さをほんの一瞬に圧縮し、重力が、地球そのものの重さとなって、人間の体を押しつぶす。今までこの摩天楼の頂点に君臨し、少年にとって絶対無比の独裁者であった男を。全てを剥奪され、命すらも奪われるという末路。簒奪されし独裁者の死。
 少年は引き起こされつつあるパニック、誰かの悲鳴や絶叫、うろたえた叫び声を聞きながら、眼を閉じる。砕け散ったガラスの破片。冷たい風と、サイレンの音。
 敗北とは、死だ。
 彼は夜の夢ごとに、血と修羅にまみれて勝ち取ったもの、永遠に消えない烙印を、くりかえし、くりかえし、反芻する。


 私、二人は幸せにはなれないと思います、二人を幸せになんかしませんから、だって、私はずっと誠君を好きで居ますから、永遠に

 遺伝子のレベルから、生物の体に刻み込まれているはずの【生存本能】というものの束縛を、少女は、愛と名づけたものの力を借りて、ひとつひとつ、解いていった。今は永遠の愛に充たされて、心は静かだ。哀しくない。寂しくも無い。
 背中をなぞる恐怖と絶望を、むしろ心地よい愛撫と感じながら、ゆっくりと屋上のふちを蹴る。長い髪がひろがり、最期の表情と心に決めた微笑みは、白い面差しが血と骨にまで砕くまで、決して消えることは無い。
 小鳥の羽となり、ゆっくりと空へと舞い上がっていくような感覚。自由落下。錯視。あるいは、何者かの慈悲。無重力にゆっくりと身をゆだねる。少女の決して長くはなかった人生と、その愛と狂気の全てを圧縮して、またたきひとつの間の後に、この世の全てが彼女のことをぐしゃぐしゃになるまで押しつぶす。
 最後の一瞬、愛しい人の顔が見えた気がした。他の誰を愛していても、彼を愛していた。もつれた糸のかたまりのような愛。もう、どこまでが執着であり、どこまでが狂気であるのかの境い目も分からない。
 彼は永遠に自分を忘れないだろう、一度はくちづけたことのある唇が、愛撫したことのあるやわらかな肌が、ただの肉塊と成り果てる瞬間を忘れないだろう。
 愛とは、死だ。
 少女は彼を想うごとに、訪れたかもしれない終末、痛みに充たされた恋を、くりかえし、くりかえし、反芻する。
 
 



 ありのままに今起こったことを話そう。
 決闘をしていたら、気が付いたら、相手が寝ていた……
「……で、さぁ。いつのまに寝てたの、王様」
「さっき、泉さんがもう一人のボクのデッキを見てたときからだよ」
 二心同体の体というのは、片方が寝てしまってももう片方が出てこられるから便利だ。しかし、集中していたとはいえ、相手が入れ替わっているということに気付かなかったというのは非常に無念である。うーむ、とこなたは呻いた。AIBOこともう一人の遊戯は、そんなこなたに苦笑しながらとんとんとカードをそろえ、フィールド用のシートをたたむ。
「じゃ、ここで今日のデュエル講座は終わりだね。ボクが続きやったってしかたないでしょ?」
「うーん、まーねー。しかたないなあ。王様、どうしてる?」
「爆睡。意外と夜に弱い」
「ふがいない!! ゲーマーはお日様が昇る頃に寝るのが普通だよ!」
「普通じゃないよ〜。ちゃんとねないと背が伸びないよ?」
「……いいんだもん。私はこれが萌え属性なんだもん」
 連続連戦の決闘講座。夜中、暇になれば遊戯を捕まえて相手をしてもらっていたのだが、連日夜更かしをさせていたのでとうとう相手がグロッキーしてしまったらしい。うーん、と伸びをしているもう一人の遊戯に、こなたは仕方なく、自分も今日は寝ることに決める。ネットゲームが出来ないからデュエルモンスターズ。ぜんぜん系統が違うくせに面白いと思っていたのだが、相手になってくれるのが一人しかいないせいで、すっかり夜更かしを強制してしまっていたらしい、といまさら気付いた。
「ごめんねぇ〜。私はさ、狩りとかやってると徹夜も普通なのよ。んで、うっかりゲームと名前が付くもんは、夜中のほうが調子がいいって癖が付いてるらしくってさ」
「癖じゃなくって、ほんとにそうみたいだね。僕は見てるだけだけど」
 そろそろレンタルじゃなくって、ちゃんと、自分のやりたいデッキが出来上がってきたんじゃない? 遊戯は笑う。こなたは顎に手を当てて、「うーん」と唸った。
「いやさ、コンセプトとかはアレやりたいなとかコレやりたいなとかあるんだけどさ…… 本気で組もうと思ったら、破産しそうな気がするんだよ……」
「そういうもんなんだよ」
「決闘者の道って厳しいなぁ。あ、遊戯くん、私なんか飲んでから寝るけど、キミも紅茶とかどう?」
「いいね。うれしいなぁ」
 うむ、了解と頷いて、こなたは椅子から立ち上がった。毎晩毎晩顔をつき合わせてゲームして、それからお茶を飲んで寝る。すっかり馴染んだパターンであった。
 夜中遅くまで二人っきりでいるものだから、どうやら周りからはあらぬ誤解を招いているらしい。が、そんなもんは完全に邪推だ、というのがこなたの気分だ。実際に遊戯(二人とも)はいいヤツだし、すばらしいゲーマーだし、気も、目線の高さもあっていると思う。だが、だからといって、男女だからかならず恋愛せにゃならん、というもんでもあるまい。
『毎晩いっしょにおしゃべりしてるって、完全にフラグが立ってる気もするけどねぇ』
 現実はゲームみたいにいかないのだ。こなたは「タマゴより難しい〜♪」などと鼻歌を歌いながら台所へと行く。と、そこで先に誰がいるのか、明かりがついていることに気が付いた。
「ふにゃ?」
 甘いにおい。ぴょこんと首を突っ込むと、こんな遅くなのにパジャマに着替えても居ない誰かが立っている。長い長い黒髪を見れば誰だかはすぐに分かった。
「言葉ちゃん? 何やってんの??」
「あれ、こなたさん」
 振り返った言葉は、パジャマ姿のこなたをみて眼を丸くする。手元でやかんが火にかけてあった。蜂蜜やレモン。
「あー、なんか美味しいもの作ってるー」
「ええ、ちょっと。こなたさんは?」
「えっとね、AIBOとデュエルしてたんだけど、もう寝ようって。だからその前に紅茶でも飲もうかなって話してたんだけど」
「そうなんですか」
 でも、寝る前に紅茶はよくないですよ、といって、言葉はおっとりと微笑む。
「カフェインが入ってるから、寝つきが悪くなっちゃいます。よかったら、お二人の分もレモネードを作ります?」
「え、いいの?」
「甘いほうがいいですよね」
 というわけで、深夜のクッキングだ。ことことと音を立てるやかんと、蜂蜜やレモンの甘いにおい。ぶかぶかのパジャマを着たまま、こなたは幸せな気分でテーブルに座って足をぶらぶらさせる。言葉はまったく料理オンチだが、こと、コレに関しては実においしいものを作ってくれる。それにだ。
「真夜中に…… おっとり系巨乳美少女がおいしいものを作ってくれる…… しかも制服エプロンで……」
 ああ〜、癒される〜、と溶けそうになっているこなたに、言葉は、「はぁ」となんともいえない感じで苦笑した。
「萌えだよ! これは萌えだよ! 萌え癒しだよ!」
「萌えって…… わたし、よくわからないんですよねぇ」
「例、喋りはつたないのに歌は上手でそれを褒められて嬉しそうな初音ミク。例その2、魔理沙と箒に二人乗りして狭いと怒りながらも実は嬉しそうなアリス」
「……やっぱり、わかんないです」
「いいよ、いいよ。自分自身が萌えキャラな子は、他人の萌えを理解する必要は無いんだよ〜」
 パジャマで足をパタパタさせるこなたに、言葉はちょっと首をかしげた。こなたはすごく癒される。あんまり口数が多いほうじゃない言葉は、こなたが一方的に喋っているほうが居心地がよさそうなことが多かった。
 口下手な子なんだよな。無口キャラとまではいかないが。そこもまた、萌えだけども。
 そんなふうにおもっていると、「あの」と言葉がひかめに声をかけた。
「んにゃ?」
「どうも、ごめんどうをかけるみたいで悪いんですけど、多めに作るついでに…… もう一人分、ちょっと、持っていってさしあげてくれませんか?」
「ん? 誰に?」
「その…… 海馬さんに」
 こなたは、眼を丸くした。ぱちくりと瞬く。
 言葉はコンロのほうを向いている。声はおだやかだった。表情は分からない。
「こんな夜遅くに、私みたいなのが男の人がひとりでいる部屋にいったら、よくないでしょう。こなたさんも一緒だと思うんですけど、遊戯さんと仲がいいから大丈夫かなって……」
「ちょ、ちょっとタンマ。まって言葉ちゃん」
 それってどういう意味なの? 思わず首をかしげるこなた。言葉はやっぱり振り返らない。
「こなたさんはみなさんと仲がいいですし、それに、遊戯さんと仲良しだから、海馬さんも変な誤解はしないと思うんです。でも私はそうじゃないから。だから、運んでもらうのだけお願いしたいかなって」
「よく、わかんない理屈なんだけど」
「……」
 どういう意味なのかな? こなたは頭をフル回転させて、なんとか理由を見つけ出そうとする。ようするに、ギャルゲ的に言うと、夜中に差し入れっていうシチュをやると社長とフラグが立っちゃうから、それは避けたいってこと? わたしは王様とフラグが立ってる(と、思われてる)から、社長相手だと何やってもルートが分岐しない。だから私が代わりに持っていくといい。あれ、でもそれって逆の意味でなんかのフラグが立つような気がするんだけど。
 そこまで考えて、はた、とこなたは気がついた。
「それ、社長のために作ってんの? だったら、最初からそりゃフラグ立ってるよ〜。わたしが持ってっても、言葉ちゃんが持ってっても、おんなじだよ」
 だいたい、海馬はああ見えて頭が固いから、夜中にひとりで部屋にいったからって、言葉を襲ったりはするまい。というよりも、今の言葉はとにかく凶悪なまでに剣士系だから、相手が変な薬でも持ってなきゃ返り討ちがオチだ。だが、そんなふうにぐるぐると想像(妄想?)をしていると、言葉がくすりと笑う声が聞こえた。やわらかい苦笑。
「違いますよ、たぶん。こなたさんが想像してるのとはぜんぜん」
「ぜんぜん? って??」
「私にはずっとすきって決めた人がいますし…… だから、そういうんじゃなくって」
 言葉はトレイの上にマグカップを置く。大き目のカップの中で、甘酸っぱいレモネードが、やわらかく湯気を立てていた。
 言葉は微笑んだ。寂しそうに。
「たぶん、海馬さんは、わたしが嫌いです」
 こなたは、思わず、返事を見失ってしまった。





 遊戯と別れて部屋へと戻る。同室のハルヒが、半分寝てるようなおきてるような状態で本に顔をつっこんでいた。こなたは迷わずその上にダイブした。
「ぎゃっ!!」
「ちょっとちょっと! ハルにゃん起きて!」
 蛙を踏んづけたみたいな声を上げるハルヒ。当然、一発で目が覚めたらしい。「何すんのよ!」と怒鳴りつけてくるのに、こなたはそれ以上の勢いで、「恋愛相談付き合って!」と大声で返事をする。
 さすがに度肝を抜かれたらしい。ハルヒは一瞬絶句した。
「……は?」
「ハルにゃん〜、わたし、ゲームはやってるけど三次元の男の人と付き合ったこと無いんだよ〜。だからオネガイっ!」
 しばらくは眼をしょぼしょぼさせていたハルヒだったが、しばらくして、ようやく眼をさましたらしい。もそもそと布団から出てきてベットの上に座りなおす。タンクトップと短パンという格好。あ、リボンしてない。
「こ、これはレア…… 涼宮ハルヒの睡眠……」
「何の話がしたいのよ。寝てたんだからねあたし! さっさと言いなさいよ!」
 ふきげんなハルヒに怒鳴りつけられて、あ、そうだった、とすぐに思い直す。こなたはベットの上に正座をして、できるかぎり分かりやすく状況を説明した。
 いち、遊戯とふたりっきりでデュエルしてたこと。に、最期になんか飲もうと思って台所いったら言葉がいたこと。さん、言葉がついでに社長のところにもレモネードもってってくれないかと言っていたこと……
「でね、言葉ちゃんがねえ、『海馬さんはわたしが嫌いです』って言ったの。何コレ? どゆこと? ハルにゃんはどう思う〜?」
 話を聞いていて、ハルヒはある程度目が覚めたらしい。だんだん普段の頭のいい、いささか繊細で神経質に過ぎる表情が戻ってくる。ハルヒは「ふーん」と腕を組みなおした。
「そんなこといってたの、あの子」
「それ、逆じゃない? もう私ぜんぜんわかんなくってさあ。社長、むしろ言葉ちゃんのこと大好きじゃない? というか、フラグ立ってない? 二個ぐらい」
「あんたね、いちいちギャルゲ思考はやめなさいってば」
 ハルヒはため息をついて、「わかんないでもないけどね」と言った。
「え、ええええ?」
「いーい、こなた。あんたにも分かるように説明してあげるけどね、世の中には、『同族嫌悪』って言葉があんの」
 同族嫌悪。自分と似たような思考回路、行動パターン、信念を持った人間を見ていると、うんざりしてしまうことをいう。
「あたしにも憶えはあるんだけどね、結局、そういう相手を見てると、相手の考えてることが分かっちゃう分、どうしても臆病になるの。分かる?」
「いや、ぜんぜん」
「……。あんたはそうでしょうね。でも、あたしもそうだった。見てると相手が何考えてるか、自分だったらどう思うかを想像しちゃう。そういうのってすんごい疲れるのよ」
「それ、誰のこと?」
「誰だっていいでしょ!」
 ただ、それだけじゃないと思うけどね。ハルヒはガリガリと頭を掻く。普段のカチューシャがない分、なんだか妙に無防備な印象だった。
「社長と言葉ね、あれ、なんかあるんじゃないの」
「何か? 何かってなんなの〜?」
「あたしが知るわけないでしょ。言葉ちゃんとはそれなりに仲いいけど、ワハハのほうはぜんぜんだもん」
 同じパーティだけどそんなに仲良くないからね。ハルヒの言い方はバッサリだ。
「人間、他人のかんがえてることなんて分からない。仲良くたってわからないのに、あんまり話したことも無いやつのことなんてわかるわけないじゃない」
「ハルにゃん、冷たい。いつからそんなツンデレに……」
「いちいちオタク用語で喋るんじゃないわよ! あたしはツンデレじゃないからね!?」
 うー、とこなたはクッションの上につぶれる。こういう小難しい人間関係って…… 地元だと女友達同士の気楽な付き合いに終始していたこなたには理解を超えた次元だった。ハルヒも、あまりにぐったりしているこなたをみて、若干、罪悪感を感じたらしい。ため息をついて腕組みを解く。
「結局、あんた、社長のとこに言葉のレモネードもってってあげたの」
「うん、やったよ〜」
「……こんな時間まで起きてるのね。何やってたの?」
 こなたは一瞬、返事に困った。何をやってたんだろう?
 ハルヒは頬に手を当てる。思案顔だった。
「なんだかんだいって、忙しい男よね、アレ。あの歳で社長で決闘者で高校生で、あとなんだっけ?」
「カイバーマン?」
 バカなことを言いつつ、こなたも、ハルヒの言うとおりだと思う。たしかに海馬はいつでもオーバーワーク気味だ。そういえば、まともに寝ているところを見たことがない。
 朝はいつも一番最初に起きているし、夜中も何かとEDF関係のことに手を出している。大の大人のピコ麻呂やハートマンもそうだが、彼らはちゃんと仕事にローテーションを組んでいるようだった。そのうえ、ピコ麻呂には補佐役で秘書の琴姫もいる。オーバーワークという印象はあまり無い。
「で、言葉はなんだかんだいって、あの男を心配している、と」
「んじゃあ、社長は絶対に言葉ちゃんが嫌いじゃないよね?」
「……あんたいいやつよね、オタクだけど」
「へ? 何いきなり?」
 ハルヒの唐突な発言に、こなたは眼を丸くする。やれやれとハルヒは苦笑した。苦笑いと愛しさが混じったような表情だった。
「嫌われてるってことに慣れてないでしょ。誰かが誰かのことが嫌い、しかもどっちも自分の知り合いだったら、気持ち悪いんでしょ」
「そ、そんなの…… あたりまえじゃん」
「……。そーね。そうかもね」
 ハルヒは、うーん、と伸びをした。ついでにあくびを一つ。こなたはわけがわからない。
「んじゃあね、面白いこと一個バラしてあげる。特別だからね。あたし、友だち少ないの。とっても」
「なんで? ハルにゃん面白いじゃん。美人だし」
「少なくてもいいって思ってたからね。自分のやりたいことやるためだったら。そういうやつって嫌われるの。美人だと特に」
 はあ、とこなたは答える。
 ……よく、わからない。
「顔がよくて頭がよくてお金持ちでね、しかも周りのことを考えないやつって、絶対に友達できないわよ」
「そんなことないよ。だって、ハルにゃん私の友達じゃん」
「あんたは自分が頭がよくないとか、美人じゃないとか、お金持ちじゃないとか、そういうことでみじめになったことある?」
「……あ、あるよ」
 ふうん、とハルヒは言った。鼻で笑ったも同然だ。
「でもまあ、とにかく、嫌われるのになれてるやつってね、嗅覚がはたらくから、自分を嫌ってるやつのことはすぐに分かる。しかも、相手が自分を嫌ってると思ってオドオドしたりするから、ますます相手がこっちを嫌いになる。そういう悪循環になりやすいの」
「言葉ちゃんと、社長が、そうだってこと……?」
 こなたが珍しくも心細げな声で言う。ハルヒは少し黙り、考え込んだ。
「絶対にそれもあるけど、ちょっと違う気もする。実際、あの男、言葉のこと一番認めてるみたいだし」
 そして、しばらくたって、ぽつりと付け加える。
「今日、あの子なんかあったっけ」
「言葉ちゃん? えっと…… 今日もガンガン戦ってたよ。演習とかで」
「捨て身だよね、言葉」
「うん。そういうタイプだよね…… でも、意思は強いよ? 勝とうと思ったら絶対に相手をやっつけるもん。そういうとこ、社長は気に入ってるんじゃないかって王様が言ってたよ」
 しばらく黙って、それから、ハルヒは言った。
「気に入ってると、さらにムカつくのよね」
 こなたはめんくらった。
「どういう意味?」
「説明したって分かんないから、言うだけ無駄。だから説明しない」
 ハルヒはそっけなく答えた。だが、それから、やや複雑な顔をする。
「でも、なんかあるのかもね。言葉と社長のどっちともに」
「……」
 意味がよくわからなかった。こなたは何かを言おうとして、けれど、何も思いつかなくて黙り込む。
 なんだか、変に苦いような気分が舌に残って、気持ちが悪かった。こなたはぎゅっと胸を押さえる。
「ねえ、なんで私だけ子ども扱いなのかな?」
 ちょっと笑う。無理やりだと一目でわかる。ハルヒは無言で、そんなこなたの頭を軽く叩く。ぽん、ぽん、と。慰めるように。